理想のお嫁さん
「明石さんって理想のお嫁さんだよね」
「はぁ?」
「えぇ……」
私の言葉に明石さんは胡散臭そうにこちらを見、愛染くんは困惑し、蛍丸くんに至ってはその可愛い顔で不憫そうに「主さん、大丈夫?」ときた。これは確実に頭の方を心配されている。
「だってさ、お裁縫も上手だしさ。子供達の面倒もよく見てるし、お部屋も綺麗に片付いているしさ! 理想のお嫁さんじゃん!!」
力説するほどに子供達が引いていくし、明石さんに至っては「頭湧いてんのちゃう」みたいな微妙な笑顔でこちらを見ている。亀甲なら大喜びかもしれないけど、ダダ滑りの空気は私にはちょっと堪える。でも負けない。
彼は普段ぐうたらしているように見えるけれど根が真面目なのを私は知っている。ぶつくさ言いながらも仕事はほどほどにこなし、手を抜くところは手を抜く。なんとも要領の良い刀だと思う。
来派の部屋は意外なほど綺麗に片付いている。彼が一人で洗濯物を畳んで掃除をして、それからゆったりと寝転がっているのだと知った時には仰天したけれど、優雅にくつろぐその裏でこんな地道な仕事をこなしているのだと感心してしまった。
「私そういうの全然駄目だからさ、いいなぁ〜。こんなお嫁さんが欲しい」
冗談の延長で何の気なしにつぶやいたつもりだった。
「構いまへんけど」
「あはは、やっぱり駄目かぁ〜……え?」
「ちょ、国行!」
私が事態を把握しそこねてぽかんとしていると、愛染くんがいち早く反応した。明石さんの胸ぐらをつかんでがくがく揺らしている。
「主さん、本当にいいの? 国行だよ?」と蛍丸くんが助け船を出す。明石さんは揺らされるまま「どういう意味やねん」とツッコミをいれていた。
私もようやく事態を飲み込んできた。予想外の展開に、なんだか大変なことになってきたぞ、とドキドキしてくる。
「だって、そんな軽々しく返事もらえるとは思ってなかったからさ……」
「いやいや、軽々しく言うてきたのは主はんやないですか」
「そうだけどさ〜……」
そもそも性別が違うというツッコミどころ満載のプロポーズ(?)がまさか承諾されるとは思っていなかったし、気の利いたツッコミぐらい返ってくるんじゃないかと軽く考えていたのだ。そのようなことを弁解すると「まぁええですけど」と返ってきた。よかった、通じた。
しかしこの返事で水に流したと思っていたのは私だけだったらしい。このやり取りがまさか肝心な時に跳ね返ってくるとは思っていなかったのだ。